ちょいぶすな私が美人扱いされた国

昨日の「美人は得か?」の記事で触れたとおり、私はある国へ旅行した際、猛烈な美人扱いを受けた。

そのある国とは、もったいぶらずに言うと、ベトナムとカンボジアである。

20代の頃に母と行ったパッケージツアーで、その2か国へ滞在したときの話である。

どちらの国でも私はずっと美人として扱われた。

日本ではちょいぶす扱いなのにも関わらず、である。

ちなみに当時の私の容姿は、小柄、貧乳、色白でも色黒でもない肌色。

痩せても太ってもいない。髪はセミロングで落ち着いた茶色だった。

なお、当時似ていると数回言われた芸能人は、恐れ多くも多部未華子さんである。

最近の洗練されきった多部さんではなく、デビューしたばかりの、あどけないというか(言葉を選ばずに言えば)まだ芋っぽさが残っていた、瞼が重めな頃の多部さんである。

写真を使用していいのかどうかわからないのでここには載せないが、「多部未華子 昔」で画像検索するとニュアンスを掴んでいただけると思う。

じゃあ可愛いかったんじゃん、という意見もあるかもしれないが、ここで言っておきたいのが、多部さんほど絶妙なバランスの美人もいないだろうということだ。

多部さんは小顔で首が長く、かなりスタイルがいい。

骨格・肌質・髪質・歯並びなどのベースが最上級に良いからこそ、すこし重たげともいえる個性的な目が女優として他に代えがたい魅力を放っていたと思う。

一方、私は小柄で胴長短足、肌質髪質ともに普通~普通以下。

多部さんのような美しい輪郭ではなく、じゃがいも寄り。

ただ瞼が重いところだけは確かに似ていた。目元だけ。

昔の多部さんの顔をゴツくして濃くして輪郭やスタイルなどは全く別物にすれば、当時の私になる。

もはやそれは「似ている芸能人」と言えるのかどうか、という感じだけど、それ以外に例えようがないのですみません。

違う言い方をすれば、女の顔立ちを5つくらいのカテゴリーに分けたときに、私と多部さんはおそらく同じカテゴリーに入る。そのカテゴリー内の偏差値70が多部さんだとしたら、45に私がいる、という感じ。

とにかく、顔だけを見れば一瞬多部さん風の香りが漂うものの、スタイル等の悪さも手伝って、決して美人ではなかったのが当時の私だ。

しかし、ベトナムとカンボジアでは違ったようだ。

それらの国で道を歩くと、道行く人がときどき私の顔を見て「ハッ」と一瞬息を呑むのが分かった。

売り子の人などは日本語ができるので、「アナタ、スゴクキレイネ!!!」とさかんに声をかけてくる。

「私に商品を買わせようとしてそんなことを言うのかな」とはじめは思ったが、同じツアーに参加している他の日本人女性には特に言っている様子はなかった。

客観的に見ても、明らかに私だけが褒められているのである。

行く先々で同じ経験をした。

マッサージの女性も、船を漕いでくれた男性も、皆が私の顔を見て「ハッ」としたあと、まじまじと見つめたうえで「beautiful」「スゴクキレイ」としみじみ感心するのであった。他の人そっちのけで。

こんなこともあった。

どこの施設かは忘れたが、その施設では入館時に、事前に作成した顔写真入りのカードを受付の人に見せる必要があった。

受付の人は私の顔写真入りカードを見るなり、やはり「ハッ」とし、埃よけに付けていたマスクをとるようにジェスチャーした後、露わになった私の顔をまじまじと見つめて「oh, beautiful face」と呟いた。

他にもマスクをしていた客はたくさんいたが、私以外はちらりとカードを確認するだけの流れ作業であり、私のようにわざわざマスクをとるよう指示されている人は全くいなかった。

私は、あの受付の人が私の美しい顔(すみません)をよく眺めたいという欲求を押さえることができずに、私にマスクをとるよう指示してきたのだと確信している。

また、最終日だけツアーの案内をしてくれた現地民の男性ガイドも私に何かとくっついてきた。

もはや私にとってはお馴染みの「綺麗ですね」という言葉から始まり、ガイドの合間合間に近寄ってきては「綺麗ですね」「何歳ですか?」「彼氏はいる?」「将来の仕事はどうするの?」などと聞かれまくり、こっちの将来の仕事よりそっちの今の仕事はどうなってるんだ、と尋ねたくなるほどであった。

隣に母がいてこうなのだから、いなかったらどうなっていたのだろうと思う。

とにかく、ベトナム・カンボジア旅行中は、ずっと現地の人に容姿を褒められ続けた。

他の人そっちのけで私ばかりが興味を持たれる、などという贅沢な経験は日本ではしたことがなく、まるで美人体験旅行であった。

1週間ほどの旅を終えて帰国すると、私のこの美人体験も幕を閉じた。

旅行中は何かと人が関わってこようとするのがありがたくも煩わしくて、こんな体験は1週間くらいがちょうどいいなーと思ったものである。美人も大変だ。

特に、最終日の男性ガイドが何かと私にばかり話しかけてきたのは、そういう経験の少ない私にとっては新鮮で面白かったけれど、もし毎回出かけるたびにこういう目に遭うのだとしたらかなり嫌だろう。

それとも美人はあしらい方を覚えていくのだろうか。

帰国後、この旅行での不思議な美人体験を人に話すと、皆「それは詐欺だったんじゃないか」とか「相手は何か買わせようとしていたに決まっている」とか口を揃えて言う。

その顔には「このちょいぶすが、国が違うとはいえ美人扱いされるなんてありえない」と書いてあるのが分かる。

そのたびに、となりのトトロのメイちゃんよろしく、「ほんとだもん!ほんとに美人扱いされたんだもん!詐欺じゃないもん……」と心の中で呟く私である。

なお、「ベトナム 美人」「カンボジア 美人」で画像検索すると、ちゃんと美人の画像が出てくる。

彼女たちは当時の私とは似ても似つかない、ちゃんとした美人だ。

彼女たちを美人と評する国民が、その美的感覚をもってして当時の私を美人とみなしたなんてかなり不思議である。

正直、私が旅行した時だけ流行り病か何かでベトナムとカンボジアの人の感性が狂っていたとしか思えない。

なんだったんだろう。

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